2011年7月29日金曜日

【文字情報】Stevens Titlingの制作経緯について

今月初めのエントリ『【文字情報】2011年6月までのお気に入り欧文書体ーMy favorite fonts from April to June, 2011』にて取り上げました書体『Stevens Titling』の制作経緯についてデザイナーの立野竜一さんよりメールを頂き、当ブログへの掲載許可を頂きました。貴重なお話だと思いますので新たエントリでご紹介いたします。

まずは前回掲載した記事を再掲載します。

Stevens Titling
May, 2011
Designer: John Stevens and Ryuichi Tateno
Publisher: Linotype

カリグラファーのJohn Stevens氏が平筆で書いたものを立野竜一氏がまとめたもの。変わっているのは、筆の掠れ具合で4ファミリーとなっていることです。平筆のローマンキャピタルは通常トラヤヌス帝の碑文の書風を踏襲するので、この書体もTrajanに必然的に似てきますが、John Stevens氏の手書きの風合いが程よく醸し出されています。

特徴・見本・購入は

Stevens Titling | Linotypeサイトより引用



この記事中の『平筆のローマンキャピタルは通常トラヤヌス帝の碑文の書風を踏襲するので、この書体もTrajanに必然的に似てきますが』の件今回『Stevens Titling』制作の際、影響を受け意識していた碑文はトラヤヌス帝の碑文ではなくAppiaの碑文(『欧文組版 組版の基礎とマナー (タイポグラフィの基本BOOK)』のp.10の写真)ということだそうです。


「A large plaque from the front of a tomb on the Via Appia in Rome」(『Plaque Inscriptions』より引用)


この書体の制作の動機が、世の中はAdobe Trajanばかりで、手書きの表情を残した柔らかいRoman Capitalの書体が欲しいと感じたそうで、Appiaの碑文がまさしく手書きの柔らかさを残していて、もう一人のデザイナー(というかカリグラファーですが)John Stevens氏の手書きと共通していた(John Stevens氏の文字とAppiaの碑文の文字が100%一致する訳ではないそうですが)、ということです。またトラヤヌス帝の碑文とAppiaの碑文とでは文字の微妙な細かいところが異なっているそうです。ウ〜ン、なるほど。Roman Capital=トラヤヌス帝の碑文という、短絡的な見方しか知らなかった自分としてはスンゴイ有難いお話でした。もっと勉強せねば。この書体の開発秘話(?)は、また後日立野さんのサイト「evergreen」にて書かれるそうですので要チェックです(いつになるかは明言されておりませんでしたw)。



2011年7月26日火曜日

【書籍情報 Book Review】Futuraの歴史をまとめた『Futura, une gloire typographique』

先日、長らく待ち兼ねていた書籍『Futura, une gloire typographique』が到着しました。この書籍は以前何かで遭遇したのですが、日本で取り扱っている業者が無かったので諦めかけていました。が、ひょんなことから日本からでもAmazon.frで購入できると知り早速注文してみました。(因みにアカウントはAmazon.co.jpで登録したものは使えず、Amazon.comで登録したものが使えました。詳しい注文の仕方などは各自調べてみて下さい。)


中身は全てフランス語で英語併記などされていませんので全くもって読めないのですが、図版を見る限り、ちょっとこれはスゴいぞ、と思えるものが掲載されています。
(ナチスドイツ時代の印刷物など。但しこれのみで、日本のみで流布している「ナチスとFutura」関係説という都市伝説が妥当であると勘違いされないよう言明しておきます。Louis VuittonやIKEA、HPなどのロゴに今も使われていることからも明らかなように間違いです。この辺のことは、Linotype社のタイプディレクター小林章氏のブログ『ここにもFutura』とタイプデザイナー立野竜一氏のサイト『evergreen』のコラムを参照して下さい。そもそもFutura展が今年フランスで普通に開催され、この図録が普通に出版されてるというだけでも十分反証になるんですけども。しかも堂々とナチス絡みの図版も載せてます。)


書籍の中身ですが、出版社サイトに30ページ分(全192ページ中)がwebカタログ的に閲覧可能となっています。
Futura, une gloire typographique [view book]


また、30ページ以降から抜粋した写真を以下に。

表紙

1927年秋、初のFutura書体見本帳。

1930年、2回目のFutura書体見本帳。

1930年、ラースロー・モホイ=ナジ作、ヴァルター・グロピウスの展覧会のカタログ。

1938年2月、ドイツ「国民の祝日」

1944年ポスター、「鉄槌と鉄床のあいだで」

1961年、フォルクスワーゲンの広告

1969年、アポロ11号の着陸予定地の地図

1968年、映画「2001年宇宙の旅」のポスター。

2011年7月19日火曜日

【イベント参加】なに活様での神戸カリグラフィーフォーラム主催WSにお邪魔して…

さてさて、先日開催された「神戸カリグラフィーフォーラム主催WS」にお邪魔してきました、というか半分撮影係としてですが。こちらの模様は別途報告があるかと思いますので割愛させて頂いて、今回はなに活様にまた加わった新顔の紹介とか実験とかの報告を。


まずは新顔の写真から。



新顔その1



新顔その2


先輩のミニ手フートとの3ショット

こやつ等は何モノかと云うと、ガリ版(謄写版)のミニ印刷機で、手回しだけども紙送りは自動という出来るヤツら、ローラーに専用の蝋紙を用いて、インクはローラーの中に放り込むという方式です。英語では「Card Size Stencil Duplicator」といいます。実は写真はありませんがガリ版制作セットもなに活様にあります。そういえばタイプライターもあります(実はタイプライターで専用の蝋紙に打ち込むことも可能)。こんな感じでドンドン色々な印刷技法を用いた機械が増えていっております。




続いては、印刷実験。
HeidelbergのWindmillでリノリウム版を彫って制作した刷版を用いて印刷してみました。

HeidelbergのWindmillにセットした版にローラーでインクを付けているところ

印刷結果

リノリウム版でもしっかり綺麗に印刷可能です。リノリウム版は今関西のごく狭い範囲でブーム?になっていて、魅力はなんといっても自分で版が作れてしまうというところでしょう(そういう意味では紙版(ここでは紙を切り貼りして凸版または凹版を作ることを指す)も)。


現在なに活様を中心に、これまたごく狭い範囲で様々な印刷手法を試したくてウズウズしているところで、尚且つ後加工やら何やらまでやってしまおうと目論んでいる最中です。何しているのか、何しようとしているのか、気になる方は、今月は23(土)、30(土)にPRISMショップが、27(水)夜にユルユルWSがありますので、顔を出していただければ。



おまけのHeidelberg Windmill画像&動画。







2011年7月13日水曜日

【もじ見】コロタイプ印刷の便利堂様へ伺う

いやぁ、具沢山で初見初聞のものばかりで中々頭の整理が付いていませんが、諸資料を参考にしつつザックリと見学記を。

なに活様(@nanikatsu)のご手配に便乗し、コロタイプ印刷の便利堂様へ伺ってきました。暑い暑い京都市内、全く空気が動かず熱が籠って暑さ倍増、そんな時節の見学は皆さん汗だく。
便利堂様に到着し、「コロタイプとは」という説明書きを頂きしばし眺める。ワタクシ管理人は、事前に書籍『印刷に恋して』で予習していきましたが、またここでなるほどと分かった気になる(全然分かってませんでしたが(苦笑))。

で早速、最初は印刷工房の方から。コロタイプ用印刷機が4、5台ほど(すみませんうろ覚えです)がズラッと並び、印刷の真っ最中。そんな中恐縮しながらカメラをパチリ。各解説は、頂いた資料などを元にしています。


黄色っぽい刷版(黄色いのが感光性ゼラチン)に湿し水を行って調子をつくる作業。版の焼付けされていない部分は軟らかく、湿し水をすることで水分を吸収し僅かに膨らみインクを弾くそうです。コロタイプはインクを弾く部分と乗る部分とで構成されている点ではオフセット(平版)と同じですが、インクの濃度はインクの乗る部分の深さで決まるという点では凹版と同じで、要は平凹版的な印刷手法です。また印刷は1色ずつ特色を行い、濃淡は連続階調で表現するため淡いところも(網点表現とは違い)非常に綺麗に表現されます。カラーコロタイプ(昭和30年代に自社開発)の場合、全特色で10版重ねになったりなどします。こうなると本物と区別付きません。またこの版は300枚程度の耐刷能力ですので大部数用ではありません。このような性質から主に国宝・重文級資料の複製や、美術品の少部数ものなどでよく使われるとのことです。


湿し水を行った後、余分な水分を拭き取るためのローラーを刷版上で転がす。このローラーを「官報」というらしい。当初は本当に官報を巻いていたからということらしい(『印刷に恋して』より)。ワタクシ管理人が見た限りでは何らかの紙が何重にも巻かれていました(転がしている途中で紙が破けたので)。


使用するインクは相当固く(顔料含有率60%で耐光性を持ち、長期保存に最適)、印刷機にはヘラで1、2回擦り付ける程度でしたが、よく考えたら印刷機が稼働している処に餅搗きの合いの手を入れるようにしてインクを擦り付けてました。よく考えたら危ない(『印刷に恋して』に書かれている通りでした)。活版印刷機のように版が動きますが、こちらではインク壷まで一緒に動きます。そのためローラーがシリンダーとインクローラーの一人二役の大活躍。


次に、刷版の制作現場へ。
こちらでは、毎朝(!)厚さ10mmのガラス板に感光性ゼラチンを塗布して刷版を手作業で手作りしています。この作業は午前中のみにしか行われませんので、今回の見学(午後)では見ることが出来ませんでした。この作業は、刷版に埃などが付着しないよう上半身裸でエプロンを付けてされるとのこと。後、版面に均等に伸ばすのは版をこれまた手で前後左右に揺らして伸ばしますが、この辺は経験と勘だそうです。


そして、版焼き台内で出来た刷版と製版フィルム(ネガ)を密着させてセットして固定し台を回転させます。



その後、強烈な紫外線を上から3分程度露光させます。




露光が終了し、台から取り外すと見事に感光されています(刷版の黒い部分が感光部分)。
因みに、この刷版は1日しか持ちません。その日の終わりにゼラチンをはがすために苛性ソーダのプールに漬け置きするそうです。また、ゼラチン部分を触ってもその版はボツになるらしいのですが、ワレワレはベタベタ触らせて頂きました(もちろん見学用に用意されたものをです)。ゼラチンが塗布されているのでプニプにしているかと思ったのですが薄いため意外に固い感触です。


次に製版部門を見学させて頂きましたが、写真撮影を忘れてました。
ここでは、製版フィルムを制作します。撮影時に粗く4版に分解して撮影してネガフィルムを作り、そのネガフィルムに、必要な色のみ抽出するための「色の取り出し」作業をします。こちらも完全手作業で丁寧に不要な部分を潰していく根気のいる作業です。カラー版の場合、何色に分版するかはその都度打合せして決めていくそうですので、作業途中で色数が増えたり減ったりするそうです(見せて頂いたものは10版!ありました)。


そして最後が、撮影室。
便利堂様までは基本原寸で(諸事情でそうでない場合も時にある)ネガフィルムをつくるために(フィルムの最大寸法71.1×55.9 cm!までOK)、カメラも必然的に大きくなります。このカメラで4色(紫・緑・赤・黄)のカラー分解フィルターを使って、黄・赤・青・墨の4色に粗く分解したネガフィルムを作ります。ただ、現在では撮影フィルムの生産自体が縮小・中止していっているというご時世、何千枚もストックしているそうですが、新しい案件では最初からデジタルカメラで撮影・処理しているそうです。

カメラのスタジオ側全景

レンズ部分

レンズ部分

レンズ部分アップ

レンズ部分アップ

反射板

原画を置く台

暗室側:蛇腹内部

暗室側:蛇腹内部

暗室側:ガラス板とフィルムを置く台

暗室側:ガラス板

暗室側:フィルムを置く台と操作ボタン

暗室側:ガラス板アップ





これにて見学は無事終了し、嬉しいことにコロタイプで刷ったものまでお土産に頂いておいとましようとしたところ、玄関口に古い(明治時代!)手動石版印刷機が展示されていて、数十年前までこれでも印刷されていたということです。




石版


以上、具沢山の見学会でありました。